7/15/2012

茶庭作り道半ば。


2008年7月の暑い日、ファンキーとビスケを乗せたクルマで東京から一気に走ってこの地へたどり着いたとき、築100年の古民家とその周囲のジャングル状態に呆然とした。一夜明けて土蔵の前の荒れ様に強い憤りを覚えた事を今でも覚えている。

祖父は100年前にここへ住居を新築した。土蔵の南、書院造りの床の間の西側には立派な茶庭を造った。僕が幼い頃に見たアルバムの写真の記憶しかないのでたしかではないが、黒松、柊、皐月、銘石を要所に配した20〜30坪ほどの侘びた庭だった、はずだ。宮大工を滞在させて欄間、神棚、仏壇など細工物に趣向を凝らして家を建てた祖父だったからこの場所に造った庭にもそれなりの思い入れがあったはずだ。その庭が僅か100年でほぼジャングル化完了だ。あの世の祖父の嘆息が聞こえてくるようだった。

下の写真で紫陽花が位置する辺りに手入れの行き届いた大きな黒松があった、はず。 今は見る影もない。黒松の下にあった皐月は数寄者が見たら涎が出そうなカタチと大きさに育って生き残っていた。

上の写真のアングルを平行移動して南へ振ると異常なカタチで上へ伸びた柊が見える。30年ほど前に町の指定天然記念物候補なったらしい。庭が荒れすぎていて不採用だったとか。
周囲の草木がずべて背を高くしているので柊もやむを得ず上へ上へと伸びたのだ。その右手前と左手前にも皐月の立派なやつが・・・.

この伐りまくった跡を見て後日植木屋さんが呆れ果てた。このジャングル状態を見たときには憤りと言うか怒りに任せて草木、樹木を伐って伐って切りまくった。夏場ゆえの暑さと虫、蜂、ヤブ蚊に悩まされながら頭の中を真っ白にして伐りまくった。庭の西の土手から薮にかけても伐りまくった。土手にあった巨大な皐月だけはさすがに伐る事を思いとどまった、っていうか伐るのがタイヘンだったので伐らなかったが・・・。

翌2009年早春。土蔵前に残ったのは樹齢100年の柊1本のみ。西方の土手にある同じく樹齢100年の皐月も何となく残した。さらにこの1年後に叔父の形見の黒松をこの庭へ移植しに来た前述の植木屋さんは下の写真右辺皐月の切り株を見て「伐ったんですかぁ・・・・・・。この皐月を・・・・。ほぉ〜・・・・。エラい事をされましたなぁ・・・・。」とつぶやいた。つい最近知ったのだが、市中に庭を作る人たちにとって大振りな皐月を群生させた庭というものは価値のあるものらしい。そんな事言われたって・・・・。あのジャングルを見たら誰でも無性に伐りたくなる・・・・。

2012年春。植木屋さんのアドバイスに従って伸びた上枝を切った柊は若芽をたくさん出し始めて元気復活。痛恨の皐月の株も伐った3株のうち2株は新芽を出して樹勢を増している。

そこかしこから昔の名残の花木が顔を出すようになった。長い間にわたって地べたに張り付いて辛抱していたのだろう。土を掘れば埋もれた庭石が顔を出すし、何となく100年前の庭のイメージも思い浮かべることができる。

母屋の中で腐りかけていた納戸の改修もやっと今年の2月に終えたので、そろそろこの庭にも手を入れようと思った。茶庭にしてみよう。西側の土手の奥は夜な夜なイノシシが行き来する獣道もあるほどの田舎屋の庭だ。周囲の自然と庭の一体感を意識しよう。

土蔵の前のジャングルを伐り拓いている頃に母屋東側の勝手口裏辺りのジャングル地帯の土中に埋もれていた白御影の石臼を見つけた。いずれ水草でも浮かべようかと考えて掘り起こし、土蔵裏に放置しておいたのだが、いよいよ出番だ。

書院造りの広間の西縁先には鉢前の一部である手水桶台石がある。祖父は茶人ではなかったので庭に蹲踞を作らなかったのだろうがいずれにしても客人の手洗いのために縁先にこれを設けたのだろう。これはこのままここに居てもらう事にすること。

蹲踞を作るにあたっては茶室とする予定の八畳床の間縁先からの間合いと方向を決めるのに1年ぐらいは考えた。他にもたくさんやらなきゃならない事があったし、石臼が大きくて10cm動かすのもタイヘンだったし・・・。今春の連休が明けてやっと据え置き位置を決め、穴を掘って石臼をまず置いてみる。計量はしていないが素手で押しても引いてもビクトもしないから100Kg以上はありそうな石臼。KomatsuのMR10でも吊り上げはできない。移動させるのも、場所の調整もMR10の排土板でずりずり押しながら、DIYは大仕事だ。

生コンは入れずに砕石で水平な座りを調整。どうせこの先梅雨の雨で下は緩くなり、座り具合は変化するだろう。雨が降る度にさらに調整を繰り返していればそのうち石臼はぴったり土中におさまるだろう。

次の難工事は給排水。町営水道ではなく、ポンプで汲み上げている井戸水の配管から分岐をとって10数メートル、配水は母屋の配水マスまで数メートルを引き回す。梅雨に入れば大掛かりな溝掘り工事はできなくなるからこの工事だけは急いだ。MR10大活躍。

前石と水鉢との中間に排水口を位置決め。この上に水門石を置く予定。給水管を石臼、水鉢の直後に立てたが・・・、これは掛樋の長さを考慮しておらず失敗。

掛樋長を手水鉢とのバランスで決めて配管立ち上げ位置を石臼から離した。とてつもなく太い竹筒は竹薮から。家の裏に生えている竹の量は週一で真新しい青竹に新調できるぐらいある。ド田舎というのはこういうときに便利なところだ。

水鉢と掛樋の位置が気に入らなくなると地下の配管をやり直さなければならなくなるからフィックスするまで数日間このまま放置して眺めていた。さらに水鉢の収まりが落ち着くまでは放置。梅雨の雨で重量級の石臼は土中へ少しずつ沈み安定感を増す。

この状態で数週間は様子見。様々な角度から晴れた日、雨の日、曇った日、朝夕、日中など眺め続けて水鉢の位置と水平レベルも微調整。水平を決まると注がれた水は上縁と完全に一体となる。好く出来た石臼だ。こんな立派なものが裏庭の土中に汚水とともに埋もれていたとは・・・・。

水鉢と掛樋の関係が落ち着いたところで前石と手燭石、湯桶石の位置決めだ。当方は道安系の流れなので手燭石は左側に置く。
各所の有名な蹲踞を見ると手燭石と湯桶石に使われている自然石は丸系の穏やかなカタチのものが多い。そこで「天の邪鬼な僕」としてはこれに逆らい、日頃苦しめられている崩落の多い近くの町道から梅雨入り直後の大雨で路上へ落ちてきた山石を掃除ついでに持ち帰り、2つに割ってここに配した。一度も川を流れていない石だから割り口はナイフのように鋭利。色は鉄分を多く含み赤い。色もカタチも派手な組み合わせだ。

しかし、水鉢が大きいので最初に配置した位置では下の写真で見ても窮屈だ。前石も近過ぎる。

大きな水鉢と両石の間に距離を置くと海が大きくなり過ぎるので接触させたまま両石の間隔を左右へ拡げた。正面から見るとまだ窮屈な感があるがこれ以上離すと手燭や湯桶を置く際に遠すぎる。
真夏のトップライトで水鉢の白、手燭石、湯桶石の赤のコントラストは強烈だ。が、これは月日とともに落ち着いてくるだろう。

前石をさらに水鉢から離して前端から水穴の中央までを75cmとした。
これから水門の縁を色の濃い石で囲うのだが、とても一度には決められないのでゆっくりやる事に。元々この庭にあった石と山中の沢に分け入って持ち帰った石で彼や此れやとっかえひっかえ試してみる。
薮の近くや畑の土手に生い茂っている竜の髭(タマリュウとは違う)を移植してみた。これは2年前に母屋玄関周りに移植して繁殖力旺盛なことを確認しているのでやがて水門の縁まで生い茂るだろう。

周辺が落ち着いてきたのを見計らったかのようにトノサマガエルが住み着いた。

台風の大雨の後に蹲踞全体のレイアウトを調整開始。肝要なのは数年、数十年先(手入れしてあれば、だけど・・・)の姿を想像すること。周囲の草木、樹木とのバランスも変化するのだろうし。市中の露地のように塀は無く、その先に大きな自然があるので蹲踞だけがちまちましているのもバランスがとれない。
西日本豪雨の翌日、泥濘の中で右辺にも竜の髭を移植し、シダも2種類、山から移植した。

とりあえず蹲踞の基本形は整いつつあるところで海の「ごろた」にはホームセンターで買った15Kg490円也の黒石を敷いた。産地不明。
残るは大モノ、灯籠だけだ・・・・。水鉢左後方にその場所は空けてある。蹲踞に灯籠がなければ間抜けだし、夜咄で客が困る・・・。

う〜む、灯籠だけはDIYが難しい。安価なものはあちこちで売っているが小サイズであったり石質が悪かったりする。この水鉢の大きさ、蹲踞全体のサイズとのバランスを考えるとどんなに小さくても3尺5寸、願わくば5尺高以上の織部灯籠が要る。そんなもんは注文生産でしかないのだ。研究の結果岡山市近郊でしか採石できない「万成石(桜御影)」が好みに合うという結論に達した。万成石は白御影の水鉢とのバランスもよい。おまけに採石場近くに名人の居る石材屋さんまである、が・・・。しかし、高価なのだ。石屋さんが扱う石の中でも特にハードな石だそうで腕のいい職人の数が少なく作業日数も長くなるので安価にできないのだとか・・・。(※ちなみにこの万成石、国内では名古屋のヒトからの注文がとても多いそうだ。色が華やかで、高価なのがその理由だとか・・・)

海(水門)周りにももっといい石が欲しい。石屋さんとか植木屋さんでたまにいいの見つけてもそういう石は高価だから買えない。河原へ行けば魅力的なやつがゴロゴロしてるんだけど河川の石は国有財産だから許可(一般人には無理らしい)無く採集できないし・・・。

ワタシの寿命が何歳までなのかは神のみぞ知るところだが、少しずつ手を加えて死ぬまでにはこの露地をそれなりの雰囲気にしたいものだ・・・。が・・・、灯籠を建てなければ道半ばにも達しない。



2 件のコメント:

wowotsuka-ya さんのコメント...

ども,ををつかです。
掛樋の手前側に細い竹でブッチがいにした
ステーを付けるとカッコ良いですよ。

で,蹲踞の手前に穴掘って瓶を埋めて水琴窟
を作るとか。

funkydoggy さんのコメント...

ですなあ。まぁ、掛樋のデザインは青竹新調する度に工夫を凝らしてみましょ。
水琴窟ねぇ・・・。今からやるのもタイヘンだわ。